「治療」から「予防」へ。
スウェーデン式「予防」治療の実践
欧米では医療の役割が「治療」から「予防」にかわってきました。
特にスウェーデンでは国を挙げてさまざまな取り組みを行ない、「予防」が徹底されています。
スウェーデン第2の都市ヨーテボリには、ヨーテボリ大学があります。
この大学の歯周病科は、40年以上前より予防歯科の分野で圧倒的な世界のリーダーとして影響を与え続けています。
ヨーテボリ大学には、ヤン・リンデ名誉教授が在籍し、今なお歯周病学の世界的権威として名を馳せています。ヤン・リンデ教授は2013年に旭日章を受章しました。歯科で外国人が受賞したのはこれが初めてです。
このようなスウェーデンにおける歯周病治療や予防歯科を、日本においても実践している歯科医院があります。そこでは、科学的・医学的根拠に基づいた治療を行なうことで、早期に確実に良い結果が出せるよう、治療法と治療手順が決められています。
当院でもスウェーデンにおける治療に習い、1990年ごろよりそれを実践してきました。
その後も、毎年リンデ教授率いる講師陣が日本へ来日し、講演や研修会が開かれています。私たちも毎年進化する歯周病学、予防歯科学をそこで学んでいます。
それでは、以前私が雑誌に投稿した記事を読んでいただき、歯周病についての認識を新たにしていただききたいと思います。
「治療から予防へ」 フロスを中心としたプラークコントロール
生涯にわたって歯の健全な機能を維持するためには、痛くなったら歯科医院へ行くということを繰り返すのではなく、虫歯や歯周病などの病気にかからないように「予防ケア」をしていくことが大切です。
予防の基本となるのは、患者さまご自身による毎日のプラークコントロールです。プラークコントロールとは歯垢を除去し、虫歯や歯周病の原因となる細菌を減らすことをいいます。
当院の予防ケアでは、まず「フロス」とよばれる糸状の清掃用具を使った歯磨き方法を丁寧に指導させていただきます。虫歯になりやすい部分であるにもかかわらず、フロスを使うことで、歯ブラシでは除去できない歯と歯の隣接面の歯垢をきれいに取り除くことができるため、フロスを使うことではじめて徹底したプラークコントロールが可能になると考えております。
当院の院長は40年以上にわたって自らの歯でフロスを中心としたプラークコントロールを実践しており、その経験をもとに確立したより有効な予防ケアを患者さまにご提供いたします。
「基本治療から高度な治療まで」 歯周病治療で全身を健康に
当院では、どんな高度な治療を必要とする症例であっても、まずは歯周病治療や根管治療などの「基本治療」を徹底して行ないます。その中でも、口腔清掃指導から始まる歯周治療が大変重要です。それは、基本治療が、建築でいう「基礎工事」にあたるからです。どんなに立派な家を建てても、基礎がしっかりとできていないと、家は傾いてしまいます。それと同じことが歯科治療でもいえるのです。
たとえば、患者さまがインプラント治療を希望する場合でも、ほかの歯が歯周病にかかっているなら、まずは歯周病の治療を行ないます。なぜなら、歯周病は歯を失う原因となる病気であるため、改善しなければ新たに歯を失ったり、インプラントを固定する骨が炎症を起こしてインプラントが抜け落ちてしまったりする可能性があるからです。歯やインプラントも同様に、その基礎となるところは歯周組織であり、この歯周組織を健全に保つことは、歯そしてインプラントを健全に保つことです。
また、歯周病は全身疾患とも関わりがあるため、歯周病を治すことは、お口の健康だけでなく全身の健康を保つことにも繋がります。
基礎工事である歯周病治療や根管治療をしっかりと行ない、お口と歯を健康な状態に整えたうえで、必要ならば、矯正治療、インプラント治療、審美的治療という流れで治療を行ないます。歯科治療の真・善・美の基本となるところは、正に歯周治療にあります。
そして、私たちが診療方針として一番大事にしていることも、歯周治療なのです。
「失った歯を取り戻す」 精密なインプラント治療
インプラント治療は、歯を失った場合の治療のなかで、機能面だけでなく審美面においても最も天然歯に近い状態に回復することができる治療であり、患者さまの生活の質を維持するために必要な治療です。そのため、当院ではインプラント治療に力を入れております。
外科手術をともなうインプラント治療を安全に提供するためには、治療前に検査を充分に行ない、その結果をもとに的確な治療計画を立てることが大切です。
当院では、安全で精密なインプラント治療をご提供するために、CTとコンピューター上で手術のシミュレーションを行なうことができるシミュレーションソフトを導入し、インプラントを埋め込む的確な角度や位置、深さなどをコンピューター上で精確にシミュレーションしたうえで安全にインプラント治療を行ないます。
また、より安全で良質なインプラント治療を患者さまにご提供し続けるために、インプラント治療の研究会や学会に積極的に参加し、最新のインプラント治療の知識や技術を習得するように常に努めております。
「清潔が美貌を作る」 徹底した院内の衛生管理
なぜ人は「歯並びを整えたい」「歯を白くしたい」と考えるのでしょうか。それは、整った歯並びも白い歯も、「きちんとしている」という清潔さを感じさせ、また清潔さは人を美しく見せるからです。どれだけ顔のパーツが整っていても不潔な印象の人は、「美しい」と評価されることはありません。美しくあるためには、まず清潔であることが必要不可欠なのです。
そして、口元の清潔感と口内の清潔を得るためには、清潔な環境で治療が行なわれる必要があります。患部に細菌やほこりが入り込んだり、院内感染のリスクがあったりするような不潔な環境では、決して良質な医療を提供することはできないからです。
当院では、院内感染を防ぐ個室の診療室と、衛生的に保ちやすいユニットを備え、治療に使用した器具や機器は、患者さまごとに消毒・滅菌処理をするなど、徹底した衛生管理に努めております。
これらの衛生管理を続けるには、コストも時間も手間もかかりますが、医療空間を清潔に保つことは、美しさを作るため、そして、安全で安心な治療を患者さまに提供するために欠かすことはできません。清潔は私たち歯科医院ができる患者さまへの最大のおもてなしであり、愛であると考えております。
歯周病治療と歯科インプラントの専門医院として
歯周病が全身疾患の原因として大きな影響を与えることはテレビや雑誌などで数多く報道されています。
そんな中、歯周病に詳しい丸山先生にお聞きしました。
インタビュアー(以下、イ) 歯ぐきから出血したとか、歯ぐきが少し腫れぼったいというとき、歯ぐきはどうなっているのでしょうか?
丸山先生(以下、丸山) たとえば、魚の骨が刺さるなどの物理的な刺激による一時的な出血、あるいは腫れであればあまり問題とはならないのですが、歯周病から起因したのであれば軽度から中等度の進行した歯周病を疑う必要があります。
イ その程度のことでそんなに悪いんでしょうか。
丸山 歯ぐきの病気は自覚症状がほとんどないままに進行します。そのため欧米では、『サイレントディズィーズ』とも呼ばれ恐れられています。
体のどこでもいいのですが、切り傷やケガなどではなく出血したとします。たとえば、病院で胃から出血がありますと言われたららどうでしょうか…。びっくりしますね。口の中の歯や歯ぐきは、あたかも物を咬むだけにある体とは繋がりのない咀嚼機械の様に思ってはいないでしょうか。
イ なるほど、歯や歯ぐきについては普段関心はあるのですが体との繋がりという面では無関心であったように思います。
丸山 それでは、歯と歯ぐきの関係を考えてみましょう。歯は柔らかい組織である歯ぐきから出ています。少し乱暴な言い方をするなら歯ぐきを突き破って硬い歯が出てきているわけです。硬い物と柔らかい物とが接しているわけですから大変デリケートな部分です。この歯肉と歯が最初にくっつく部分の所を接合上皮と言いますが、小さなタコの吸盤の様な構造で歯を取り巻きくっついています。そして、皆さんよくご存知の「歯肉溝」という溝を形成しています。
イ 歯と歯茎の関係はよくわかりましたが、どうして出血してくるんですか。
丸山 このデリケートな接合上皮は大変大事な部分です。菌やその毒素が入ってこないように歯の回りにしっかりくっついて守ってくれています。しかし、この部分は歯肉溝という溝を形成しているため歯垢がたまりやすく、この歯垢は細菌の塊ですから、この溝の部分は毒素でいっぱいになっているわけです。そのため炎症が起こり大事な接合上皮が剥がれて毛細血管が破れ出血がおこるわけです。
イ なるほど、かなり大変な事が起こっているんですね。
丸山 ここでとても重要な事をお伝えしなければなりません。歯と歯ぐきと同じような関係にあるところは、爪の生え際にあります。その生え際の三日月の爪の部分を覆う甘皮の部分がそれです。ここが傷か炎症を持って剥がれたとしましょう。皆さんは消毒して傷バンを貼り治るのを待ちます。しかし、お話したように歯肉溝からの出血は痛みもないため放置されます。その上、消毒されるどころかその歯肉溝の部分には大量の細菌と毒素があります。その細菌や毒素は歯周病により破れた血管に容易に侵入し動脈硬化や体のいたるところに疾患を生みます。こうなると、歯ぐきは歯を支えるための器官ではなく、菌導入器官となってしまうわけで、ここがまさに歯周病の問題視されているところです。
脳卒中や心筋梗塞など様々な疾患の原因になっていますが、心臓外科医が心臓にいるはずもない歯周病菌がいたのに驚いたという話はごく当然のことと言えます。ここまでお話すれば歯周病がいかに全身疾患に影響する恐ろしい病気であるかがお分かり頂けたと思います。
イ そんなことが起こっているんですか、歯ぐきからのちょっとした出血が…。そうであればなおのこと歯周病の治療や、口腔ケアについてのお話を早く聞かせてください。
丸山 まずそのお話をするうえで一番大事なこと、それは原因となっている歯垢とはどういうものなのかですが、皆さんは食べかすが歯垢であると思っている方がほとんどではないでしょうか。
イ そう思っていました。
丸山 まず理解して頂きたいこと、① 食べかす ② 歯垢 ③ 歯石 この3つをしっかりと別々の物であることを認識して下さい。食べかすは単なる食べかすなのです。 食べ物はばい菌のかたまりではないはずですから、そして歯垢は凝集した細菌のかたまりだと思って下さい。 また、歯石は唾液の中の石灰化成分と歯垢とが結合して固い石の様になって歯に付着したものです。歯周治療をするうえで一番問題なのは②の歯垢です。歯垢はキレイに磨かれた歯の表面に24時間経過して初めてしっかりした構造体となり、毒素や酸をどんどん出します。毒素は歯周病の原因となり酸は虫歯の原因となります。歯垢は、台所の排水管の内面を覆うヌメヌメしたヘドロ状のものと同じものです、そしてお風呂の排水口付近を一層覆う同じようなヌメリ、これも歯垢と同じものです。
これはバイオフィルムと呼ばれ、わたしたちの生活環境の中でよくみることができるものです。これをじかに指で触れますか? 気持ち悪くて触れないでしょう。これが歯垢と全く同じものなのです。
そして食べかす。これはお風呂の排水口にひっかかっているプラスチックのシャンプーのボトルのキャップか何かだと思って下さい。これは、指でつまんで取っても何の抵抗も感じないでしょう。皆さんが今まで毎食後に歯垢と思っていた食べかすを取るためのブラッシングとは医学的にはあまり重要なものではないということです。そして、歯垢は柔らかい物ではありますがしっかり歯に付着しているため、ゴシゴシとこすって取るしかありません。しかし一日に一回でいいのです。食前や食間、食後を問わず、皆さんが思う一番都合の良い時間帯に磨けばいいと思います。ただし、3種類の清掃器具を使いしっかりと行って下さい。
誤解のないように申し上げますが、毎食後のブラッシングをやめなさいと言っているわけではありません。エチケットとしての口腔清掃と捉えるべきだと思います。食べかすをとり口臭除去を行うことは悪いことではないはずですから、その際、毎食後強いブラッシング圧を加えることで擦過傷や歯肉退縮のトラブルを引き起こしかねないことも理解して下さい。食べかすは歯垢の様に歯に強く付着したものではありませんので軽いブラッシングで除去できるものと思います。
イ なるほど、それでは具体的には歯磨きはどの様に行ったらいいのでしょうか。
丸山 口で説明するだけではなかなか伝わらないと思いますが歯ブラシのイラストを見て下さい(前ページ①)。①の通常の歯ブラシでは歯ブラシを歯の表面にあて2~3ミリ毛先を動かし磨いていきます。歯の表、裏、咬み合わせを、上顎の左奥歯からというように磨く部分の順序をしっかり決めて行って下さい。そうしないとどこをどう磨いてきたのかわからなくなってしまい磨き残し部分が出てきてしまうからです。しかし、この①の歯ブラシはそれ程集中して一生懸命する必要はないと思います。次のステップからが大事です。②のワンタフトブラシにより歯垢の多い歯肉溝部を選択的に磨きます。この時もどこの部分から磨くのか順番を決めて磨いていってください。 最後に③のフロスか④の歯間ブラシにより歯間部を磨きますがこれが一番大事です。歯と歯の間の歯と歯ぐき間、そうです、あの歯肉溝部の歯と歯の間です。ここに一番多くの歯垢がたまっているからです。そして、これらの清掃器具の中で一番有効なものはフロスです。歯周病の予防であればフロスも歯間ブラシも有効ですが、虫歯はフロスなしでは予防することはできないのです。イラストを見て下さい。歯と歯が接触している面です。ここから虫歯になります。要するに虫歯に関しては一切の歯ブラシ類では予防は不可能だという事です。慣れるまでに時間がかかりますが慣れてしまうと非常に簡単です。フロスは当院にお越しいただければ私が実際にお教えします。
イ 口腔ケアの実際はやはり歯科医院で指導してもらわないと、なかなか誌面だけでは伝わらないことがわかりました。それでは、実際の治療に関してですが、先生は日本歯周外科学会や国際口腔インプラント学会、日本口腔インプラント学会、美容歯科などの指導医、専門医の資格を数多くお持ちですし矯正にも詳しいマルチ歯科医ですが、歯科治療を行うにあたり一番心がけていらっしゃることは何でしょうか。
丸山 それはやはり先程よりお話している通り、歯周治療と予防歯科という事につきますね。家を建てるのに土台の基礎工事をしっかりと行わないで上物だけが立派であっても、砂上の楼閣の如く朽ちてしまいます。歯ぐきの健康を保つことは歯もそしてインプラントも長持ちさせるための一番の有効処置であると心得ます。
イ 歯周外科学というのはあまり聞き慣れない言葉ですがどういう学問ですか。
丸山 歯科の分野では非常に重要な学問であり、歯科関係者ならだれでも知っている学問です。歯周治療を完治させるためには一般的な歯周治療を終えた後に重度の歯周病患者に対して深い歯周ポケット内の歯石や不良組織を掻把排除し健康な組織に変化させることが必要になってきます。そのため、複雑な口腔内の限られた狭い中での切開、縫合が必要となる繊細な外科処置です。この処置は当然ながら歯周治療を熟知した歯科医師でなければできません。
30年以上前のアメリカでの話ですが、インプラントがなかなかうまくいかないという事で、ある日歯周外科の専門医にさせたところ大変良好な結果が得られたといいます。そのため以後アメリカでは歯周外科の専門医が主にインプラント手術をするようになったという経緯があります。
イ 歯周治療を終えた後は最終的な処置が必要になってくると思いますが、快適なライフスタイルを得るためにはどのような選択肢があるのでしょうか?
丸山 機能できる歯が何本も残っているのであればつないでブリッジにすることをお勧めしますが、奥歯が何本もなくなったという場合は入れ歯かインプラントにするしか方法がなくなります。また、高齢者の場合、慢性疾患を多数持っている場合もあり、そうした場合インプラントもできませんので入れ歯となりますがアタッチメント義歯にすることで歯と一体感が生まれ大変快適です。加えて、入れ歯のバネも見えませんので美容的にも良いものです。
そして、下顎の総入れ歯ですが経験している方はご存知ですが安定せず大変都合の悪い物です。この様な場合にお勧めするのはミニインプラントです。小さなインプラントですので高齢者でも無理なく手術することが可能で、手術後の痛み腫れはほとんどありません。下の総入れ歯とミニインプラントはボールアタッチメントにより結合させますので入れ歯が驚くほど安定し、総入れ歯であるにも拘らずリンゴでもかじれるほどになります。
イ それはすごいですね。
丸山 最後になりますが、私が尊敬する米国の歯科医師パームリーはこう言っています。「美貌は清潔なくしてあり得ない。そして美貌は、清潔さに欠ける臨床では絶対に得ることができない」。私も思いますが、歯科臨床は常に清潔を心がけて行われなければならないこと、そして治療を受ける側も清潔に心掛けていただきたいと思うのです。
年をとられてもなお美しさを保っている人がいます。それは髪がきれいに整えられ、肌にも艶があり、笑顔がこぼれる時美しい歯が輝くからです。髪、肌、口元が清潔感を醸し出していれば、そして真に清潔であれば美貌は保たれると思います。ただし清潔でいるためには日々の努力が欠かせません。それを怠らない人にこそ、いつまでも美貌の女神は輝いてくれるものと思います。
イ 本日は歯周病のみならず歯科治療全般にまで及ぶ多くの有意義なお話を聞くことができ大変ありがとうございました。